万年青の育て方
信州の万年青専門店 田哲園が、店で実際に行っている管理をまとめました。肥料の時期と濃度、その目安になる気温は当園(長野県北信地域)のものです。お住まいの地域の気候に読み替えてお使いください。
万年青とは
万年青(おもと)はキジカクシ科の常緑多年草です。原種は宮城県以南の本州から山陰、四国、九州の低山地に自生しています。年中青々として赤い実が付く姿が、一般的に広く知られています。
ここからは当園で行っている管理をご説明します。置き場所と採光、水やり、植え替え、用土と植え込み、水苔、肥料、増やし方などの順に進めます。
置き場所と採光
採光と風は運動です。水と肥料(微量要素含む)は食事です。食事抜きで運動を続ければ万年青は痩せてしまいます。
まずは運動にあたる採光と風、つまり置き場所と光の当て方、風の通し方から見ていきます。
朝2〜3時間の直射日光が当たり、それ以降は明るい日陰になる場所がベストです。明るさの目安は7,000〜15,000ルクスです。
基本的に風通しを良くしますが、春先と秋から冬の冷たい風に当てると葉焼けを起こすことがあるので注意が必要です。
耐寒性は高く、冬は-3℃程度まで耐えます。温度変化の少ない0〜5℃の場所が理想的です。
葉焼けと、芸が止まること
葉焼けは、寒風や採光過多で葉が赤く焼けることをいいます。薬害にも注意します。
光の当てすぎの影響は、葉焼けとは別の形でも現れます。老化や採光過多、施肥不足によって新芽の生長が著しく悪くなることを「凝る」といい、芸の厳しい品種に見られる現象です。
系統によって、光の当て方は変わる
どのくらいの光がよいかは、系統によっても違います。獅子系は、やや遮光気味で育てたほうが葉の伸びが良くなり、葉も巻き込んでくれます。
ただし日が足りないと力強さに欠けるので、そのバランスは育てる一人一人の環境に応じて探っていく必要があります。
水やり
「水やり三年」と言われますが、基本を押さえれば失敗を大幅に減らせます。まずは季節ごとの間隔です。
春と秋は毎日かけます。根の数にもよりますが、4日程度ならやらなくても枯れることはありません。夏(梅雨明け〜9月末)は2〜3日に1回、冬(12〜3月)は4〜7日に1回が目安です。
置き肥をする方は、鉢底から流れ出るまでたっぷりとかけましょう。
植え替えた直後は、毎日かける
植え替えた万年青はしばらく日陰に置くのが一般的ですが、当園ではすぐに他の万年青と同じ棚に置いて、それなりに日を当てます。
根が活着しておらず水切れを起こしやすいので、新根が活動する時期は、水だけは毎日しっかりとかけます。表面が乾いてきたらかけるので、だいたいは1日1回ですが、朝夕2回のときもたまにあります。
その水やりを、植え替えの時期から梅雨が明けるまで続けます。梅雨明けから秋までは中1〜2日、間隔を空けます。
なお水やりの回数は、鉢のどの高さに植えるかによっても変わります。これは植え込みの節でご説明します。
植え替え
万年青は秋か春に植え替えをします。鉢から抜けにくいときは、縁を叩きます。抜いた万年青は肥料のカスや葉の落ちた跡などで汚れていますので、綺麗に洗ってから植え込みます。洗うのに使う道具から順にご紹介します。
使う道具
芋洗い用の筆は、ほどよい硬さがあり、植え替えの際に芋を洗うのに適しています。
エイヒは、落葉跡や根落ち跡を削ったり、芋痛みの部分を削り取るのに使います。刃の部分は根切りできるように砥いであります。
ヤシガラ活性炭は微粉末で粒子が非常に細かいので、少量の水に溶けばすぐに使えます。切り口、割口の保護剤として最適です。
芋根の洗い方
筆、エイヒ、ランセット(もしくはハサミ)を使って、芋根の掃除と洗浄をしていきます。
ふやけた根は不要なので、ランセットやハサミで切り落とします。途中まで生きている根は根継ぎするので、途中で切ります。切り口の芯が赤い場合は、根元から切り落とします。
筆で落ちにくい汚れは、エイヒで優しく削り落とします。根元の芋部分は筆を回しながら念入りに洗ってください。首元の汚れもしっかりと洗い落とします。
芋に痛みがあった場合は、エイヒで削り取るか、ランセットで切り上げます。赤い部分ができるだけ残らないようにしてから植え込みましょう。
用土と植え込み
植え込み材料は、基本的に赤ボラを使います。多孔質で水はけが良く、保水力にも優れた、万年青に適した材料です。
用土の割合は中2:中小7:小1。根の太さによって割合を変えてもかまいません。根の太いものは粗め、細いものは細かめにします。
品種によって用土を変える
ただし、すべてを赤ボラで通すわけではありません。水はけを好む品種には、赤ボラから日向軽石に切り替えます。また、朝明砂を下層と上層に配置するなど、品種と鉢の状態を見て臨機応変に対応しています。
竹炭は、層を分けて入れる
竹炭は、入れる位置を層で分けています。中粒は以前、鉢底に入れていましたが、現在は中層に変えました。小粒は上層です。いずれも、新根が進捗したときに効果を発揮する位置をイメージしています。
竹炭、桑炭やゼオライトを混ぜ込み、水はけ良く植え込むことで有用な微生物が住みつき、肥培効率が上がります。結果として、他の悪性な菌の繁殖を防ぎます。
植え込みの手順
サナ(鉢底止め)は、上に弧を描く向きに置きます。鉢内で根を良く広げてから、植え込みを開始します。鉢底には赤ボラ中粒を並べます。
赤ボラ中小粒をメインに使い、用土を少し入れたら打ち付けて、を繰り返します。根と根の隙間に用土が入り込んでいくように植え込みます。
竹炭中粒は、この中小粒の層(中層)に入れます。竹炭小粒は、さらに上の上層に混ぜて、また打ち付けます。新根の降りる首元に使うのは赤ボラ小粒です。根元が隠れる程度まで入れます。表面に微小粒を少量入れて形を整えます。
高さの調整は、基本として鉢の縁よりもやや低めにします。前後に傾けながらトントンと打ち付けて用土を詰めていきます。
植え込んだら、たっぷりと水を含ませます。水にしばらく浸け置きするのがベストです。水をかけた後にもう一度トントンと打ち付けると、用土が締まって水の通りが良くなります。最後は表面をコテで押さえて整えます。








植える高さと深さで、水やりと根降ろしが変わる
高さと深さは、それぞれ別のことを指します。鉢の縁に対して高いか低いかが「高植え・低植え」で、水保ちに関係します。首元に対して砂利が浅いか深いかが「浅植え・深植え」で、根降ろしに関係してきます。
まず高さです。高植え気味のほうが水の切れが良く、水やりの回数を多くかけられます。葉の保ちも良いという実践結果が出ていますが、根数は低植えよりも少なくなる傾向があります。時間と手間をかけられる方は高めに、忙しくて水の回数が少なめの方は低めに植えた方が良いです。
次に深さです。首元に対して砂利が深いほど根が降りやすく、下葉が落ちやすくなります。増殖用は深め、美術品作りは浅めにします(新根が露出するのは絶対にいけません)。
なお、植え替えを2年に1回にして美術品を作っている方もいます。首砂と上苔を変えて、そのまま培養期に入る方法です。水管理が確立している方には有効な管理方法かもしれません。その場合は低植えの浅植えにして、砂利を足して調整しましょう。
水苔
植え込みが完了したら、表面に水苔を乗せます。ポイントは2つ、首元をしっかりと固定することと、鉢の縁を空けておくことです。
首元を固定すると、ぐらつきを防げます。鉢の縁を空けておくと水の通りが良くなり、肥料も置きやすくなります。
水苔には向きがあります。房が整う向きで巻いていきます。ピンセットを使用すると作業が捗ります。
巻き終わったら水をかけます。首元からでも外側からでも、やりやすい方法で構いません。首元はしっかりと巻いておいたほうが良いです。



水苔の選び方
水苔は見た目が似ていても、繊維の長さと柔らかさで使い勝手がまったく変わります。
植え込みに使うなら、繊維が長く、柔らかく、白いものを選びます。長さが2cmほどしかないものは、根に巻くことも鉢に詰めて形を保つこともできません。
夾雑物(ゴミ)が少ないこと、ロットが変わっても品質が揃っていることも、毎回同じ感覚で使えるという点で大切です。
肥料と肥培管理
肥料と聞くと怖いというイメージをお持ちの方がいるかもしれません。ですが、濃度を守って使うことで万年青は充実して健全になります。
肥料には窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)の三大要素に加えて、様々な微量要素があります。それらをバランス良く施すことで、展示会レベルの作品を作りながら、芋吹きをとれる親木を作ることができます。
一般的な安全策は、4月から梅雨までのあいだ、2週間〜1ヶ月ごとに鉢の号数に合わせた個数の置き肥をする方法と言われています。
以下は当園の肥培管理です。信州の気候なので、1ヶ月遅れのイメージになります。
置き肥は、肥料切れを防ぐためのもの
置き肥は現在、4月と5月の2回です。以前より作業を前倒ししています。1回に置く量は2粒ずつで大丈夫です。交換はせず、追肥して夏まで置きっぱなしにします。リン酸は溶け出すのが遅いと言われているためです。
前倒しした経緯は、次のとおりです。5月と6月に置くという考え方そのものは、変わっていません。動き出しを遅くした方が葉姿は作りやすいので、以前は5月から置き肥を始めていました。
ただし置き肥は、一時的に高い濃度の窒素を与えることになります。効き目がひと月ほど続くと考えると、近年の高温期に6月の置き肥はリスクが高いと判断しました。そこで、高温期に窒素のピークが重ならないよう時期を早めています。
施すときは鉢の縁に押し込むようにします。水苔の下に入れても構いません。
液肥は、気温に合わせて濃度を動かす
液肥で注目すべきは、窒素の値です。4:4:4、2:5:5、6:10:5 など市販の商品に数値が記載されていますが、それらは%(パーセント)です。
当園(長野県北信地域)では、最低気温が10℃を上回った頃から、窒素ベースで5ppmより開始します。最高気温30℃・最低気温20℃前後の時期に、窒素20ppmを目安にピークを作ります。最高気温33℃・最低気温25℃以上のときは、基本的に窒素は鉢内に入れません。
気温は地域によって時期が変わりますので、お住まいの地域の気温に読み替えてお使いください。
薄め方の目安は、窒素20ppmに対して、窒素4%なら2,000〜2,500倍、2%なら1,000〜1,200倍、6%なら3,000〜4,000倍です(『おもと販売品リスト』第110号)。
液肥はいずれも、晴れの日に与えます。
アク水
当園ではアク水を5,000倍〜10,000倍に薄めて、ほぼ通年、毎回のように与えます。蒸散を活発にします。また液肥と混ぜることで、僅かにリンカリの補充にもなります。
肥料をやり過ぎると
濃度の高い肥料や多量の施肥のため、芋や根に障害が出ることを「肥あたり」といいます。濃度を守ることが、いちばんの安全策です。
一歩進んだ美術木作りへ
万年青はそんなに簡単には枯れませんが、上手に作ろうと色々やると難しくなります。基本をマスターすれば、安全に美術木作りができます。
置き肥主体だと窒素過多になりがちです。万年青はN(窒素):P(リン酸):K(カリウム)比率を1:1.5:2で育てます。芋根が健全に育てば、葉はついてきます。
増やし方
万年青の増やし方には、芋吹き、割子、実生があります。順にご説明します。
芋吹き
芋吹きは、芋の両サイドについている芽アタリの上をランセットで切り、親と切り離すことで強制的に子上げさせる方法です。
5才くらいからが芋切りの適期になります。自然な子上げがない品種の増殖、根降ろしが悪くなった親木の若返りのために実践します。
切り離した芋は、苔巻きもしくは砂利植えによって管理します。


割子
割子は文字通り、脇から上がった子を外して独立させる方法です。
羅紗なら根が1本、薄葉・大葉は3本以上の根があれば割ります。手でポキンと割れるケースと、ランセットで切り離すケースがあります。手でやってみて少しでも難しいと感じたら、ランセットを使うのが無難です。
真っ直ぐスパッと切るのではなく、親芋を少しもらって、丸く切り取るようなイメージです。

実生
実生は、万年青についた赤い実を蒔いて増やす方法です。
実生は増やすというよりは新品種開発になり、生えた万年青はすべて、親とも兄弟とも別の品種になります。


割子と芋吹きのやり方は、2〜4月にご来園くだされば、どなたでも無料にてお伝えいたします。
調子が悪いときは
症状には、万年青の世界で古くから使われてきた呼び名があります。名前が分かると、原因にたどり着きやすくなります。代表的なものは次のとおりです。
青だれ(青にえ)は、高温多湿の真夏時、葉に熱湯をかけた後のように青黒色になり、どろどろと葉と芋が腐ってくる病気です。
首っちょは、高温多湿の真夏に葉と芋の境界がただれて腐りが入ることをいいます。場合によっては枯死します。
渋根は根の皮膚病の一種で、根が赤茶色に変色して働きが悪くなります。進行すると芋に移行します。
根落ちは、根が腐って芋の根の落ちた穴があいた状態をいいます。注意が必要です。
最後に、処置の言葉をひとつ挙げます。芋腐れしたものを、健全な部分まで切り取ることを「切り上げ」といいます。
生長のようすを表す言葉
前年より良く生長したことを「作あがり」、生長が悪いことを「作落ち」といいます。一年間一枚の葉も出ないことを「芯止まり」といい、このような状態になると子が出やすくなります。
作落ちしたものが出来なおって、芋の形が徳利状になったものを「徳利」といいます。
展示会に出すときは
展示会に出品したり、観賞用に正装したりするときは、鉢の表面をきれいに化粧します。水苔を巻き、カーボンマルチなどの黒い粒で化粧する方法を、写真つきで別のページにまとめてあります。
動画で見る
植え込み、割子、芋切り、水苔の使い方などを、動画でもご紹介しています。
よくあるご質問
- 冬は外に置いても大丈夫ですか。耐寒性は高く、冬は-3℃程度まで耐えます。温度変化の少ない0〜5℃の場所が理想的です。ただし秋から冬の冷たい風に当てると葉焼けを起こすことがあるので、風の当たらない場所を選んでください。
- 水やりはどのくらいの間隔ですか。春と秋は毎日、夏(梅雨明け〜9月末)は2〜3日に1回、冬(12〜3月)は4〜7日に1回が目安です。植え替えた直後は、根が活着するまで毎日しっかりかけます。
- 葉が赤く焼けてしまいました。寒風や採光過多で葉が赤く焼けることを「葉焼け」といいます。薬害にも注意します。置き場所の日ざしと風を見直してください。
- 肥料はいつ、どのくらい与えますか。置き肥は4月と5月の2回、1回に2粒ずつです。液肥は晴れの日に、最低気温が10℃を上回った頃から窒素5ppmで始め、最高気温30℃・最低気温20℃前後の時期に20ppmを目安にします。最高気温33℃・最低気温25℃以上のときは、基本的に窒素は鉢内に入れません。
- 植え替えはいつですか。秋か春です。2年に1回という方法で美術品を作っている方もいます。
- 増やすことはできますか。芋吹き、割子、実生の3つがあります。芋切りは5才くらいからが適期です。割子と芋吹きのやり方は、2〜4月にご来園くだされば、どなたでも無料にてお伝えいたします。
もっと知る
この記事の出典
田哲園『おもと販売品リスト』第110号(2025年12月)/田哲園『おもと販売品リスト』第109号(2024年12月)/田哲園パンフレット(2025年)/『おもと特徴と育て方』(日本おもと業者組合)「おもとの基礎知識」/田哲園『万年青の系統』解説/当サイト「おもとの正装」(/omoto/seiso/)/田哲園「水苔 品質比較」(自社資料)
『おもと販売品リスト』は版によって数値が違うことがあります。本文に号数を書き添えた数値は、その号の記載です。